単行本(実用) 哲学 談 no.130 / 清水高志 / 奥野克巳

品切れ
管理番号: BO4840577
発売日: 2024/08/01

商品説明

哲学
【内容紹介】
特集 トライコトミー…二項対立を超えて
二元論や二項対立の克服もしくは調停という課題は、そもそも東洋の思想的営為においても古くから問われていました。
西洋の形式論理では、古代ギリシャ以来矛盾率(「Aは非Aではない」といった論理)による議論、二元論的なロジックはむしろ常套でしたが、インドで発達したのはテトラレンマ(四区分別)と呼ばれる独自の論法です。
たとえばインドのナーガルジュナ(龍樹)が『中論』で駆使しているテトラレンマは、(1)すべては真実(如)である、(2)すべては真実(如)ではない、(3)すべては真実(如)であり、かつすべては真実(如)でない、(4)すべては真実(如)であるわけでなく、かつすべては真実(如)ではないわけでもない、といったものです。
二項対立の調停という分脈のなかで、なぜ(4)を必要としたのでしょうか。
それは、端的に「多即一」、「一即多」の世界観に超出するためだといわれています。
このテトラレンマに、東洋の思想的営為の極限を探ります。
【目次】
〈西洋哲学と東洋哲学〉
「二項対立を調停する」
清水高志(東洋大学教授、井上円了哲学センター理事)
「主体と対象」「一と多」に、さらに「内と外」(ないしは「含むと含まれる」)という二項対立を加える。
二項対立の種類を限定しつつも増やすことによって、構造をより直感しやすくするわけです。
このように三種類の二項対立を組み合わせることによって、媒介と縮約の循環的構造をつくり、原因となる始点がどこにもないあり方を示す方法が、トライコトミー(trichotomy)です。
西洋的発想の基底にある二項対立をいかに回避するか、トライコトミーから考察します。
〈アニミズムとメビウスの帯〉
「縁起あるいはアニミズムの他力性」
奥野克巳(立教大学異文化コミュニケーション学部教授)
自己の非=存在性を説く仏教の観点から見れば、マルチスピーシーズ民族誌は、人類学が長らく無意識のうちに想定していた、固有性・単一性・実体性・普遍性をもった人間的自己を、複数種の絡まりあいのなかへと投げ入れて、瞬間瞬間に生成する、個体としての本性をもたない自己のイメージを再提起したといえるでしょう。
その意味で、複数種のエンタングルメント=絡まりあいとは、相依相関する「縁起」のことです。
「縁(よ)って生起すること」を意味する縁起とは、精神的・物質的な要素としての法(ダルマ)が、他の法に依存して生じるという道理を指しています。
民族誌において、文化や社会といった枠組みのなかで語られてきた、ある事物と他の事物との「関係性」とは、まさしくこの縁起的な働きを別の言葉で置き換えたものです。
むしろ、仏教の最も基本的な思想ともいえる縁起の道理は、「関係性」として描かれるメカニズムを、より深層から理解するための糸口となるのです。
一方アニミズムは、自分と自分の周囲の世界の連絡通路をつねに開いておく、言い換えれば、モノや他生にも注意を払うことで、モノや他生や世界の側から働きかけに対しても私が応じるという機序で成立するようにも思われます。
だとすれば、自力のみに頼るのではなく、あちら側からもたらされる他力を感じて、あるがままの自然を受け入れるアニミズムと「縁起」は、近傍に位置する二種の思想的営為といえそうです。
〈逆向きの因果論〉
「〈今ここ〉の極地点、未来原因説と仏教哲学」
護山真也(信州大学人文学部教授)
原因は結果に時間的に先行する。
われわれの多くが当然のように前提とするこの考えに、異議を唱えたのが、インド仏教の論師ブラジュニャーカラグプタです。
たとえば、明日、恋人とのデートが約束されている場合、その未来の出来事が現在の心に幸福感をもたらすとします。
あるいは逆に、明日に控えた手術が現在の心に暗い影を落としているとしましよう。
われわれは過去の積み重ねのうえに現在があるという考えにとらわれていますが、現在はまた未来からの影響の下に成り立っています。
因果のベクトルは過去から現在へという方向性だけではなく、未来から現在へも向けられているとしたら…。
ブラジュニャーカラグプタによれば、過去と未来は対称性の関係にあり、過去のものが結果を生み出す作用をもつのならば、同様に未来のものも結果を生み出す作用をもつと考えても、なんら不都合はないと主張したのです。
果たしてこの考えを屁理屈として退けることは可能でしょうか。
一見奇妙に見える未来原因説を〈今ここ〉を生きる哲学の文脈とすり合わせることから再検討します。
【著者略歴】
1967年生まれ。
東洋大学教授、井上円了哲学センター理事。
著書に『空海論/仏教論』(以文社 2021)、『実在への殺到』(水声社 2017)他。